文化祭参加の現代的意義 「文化祭企画案内」

◆参加目的は様々◆
高校生が文化祭に参加する目的は何でしょうか。いろいろな回答があるでしょう。たとえば次のようなものがあります。

1】「積極的に創意工夫して物事を創造する」
 普段受けている授業は、決められた内容の説明を聞いて理解し覚える受け身になりがち。文化祭で創意工夫する経験をするのが大切。

2】「勉強の合間の息抜き」「高校時代の良い思い出を作る」
 普段は勉強だけで単調なので、息抜きをしたい。思いっきり楽しむことが、卒業後に高校時代の良い思い出にもなる。

3】「仲間と協力して物事を成し遂げる経験をする」
 文化祭では仲間と協力して準備を進めるので、人間関係を築く良い経験になる。 

◆人間関係を築く力の低下◆
 高校によって文化祭の目的は違うでしょうが、昔と比べて重要になってきているのは3番の「仲間と協力して物事を成し遂げる経験をする」です。
 30年くらい前の保護者の世代と比べて、現在は他の人との人間関係を築いていく力が落ちています。少子化で家庭や近所の子供の数が減り、放課後10人以上の大勢で遊ぶ機会が減りました。昔は放課後に友達と空き地で走りまわっていた時間に、スイミングスクールで大人の指示の下で練習しているのです。大勢の子供の中でもまれる機会が、昔と比べて減ったのです。このため、大勢の中で人間関係を作って生活する能力・コミュニケーション能力が、弱くなっているのです。

◆クラブ活動でも人間関係を作る力◆
 それでもクラブ活動に打ち込んでいれば、かなり鍛えることができます。
 クラブ活動は、一体感が強い集団です。人間関係を築く上で非常に良い経験を得られます。自分が手を抜いたら大勢が迷惑し、何を言われるかわかりません。先輩が理不尽な命令をした時にどんな対応をするか、後輩の方が上手な時にどう接するかなど、様々な修羅場を通過して成長していきます。
 しかしクラブ活動への加入率は、30年前と比べて下がっています。さらに結びつきはさほど強くないサークルのようなクラブが増えていると思われます。 

◆現在はコミュニケーション能力が重要◆
 コミュニケーション能力が全体的に低下してきたわけですが、この能力は現在では、さほど必要なくなっているのでしょうか・・・?  答えはNOです。他の人とコミュニケーションをとる能力は、現在は昔よりも、より一層重要になってきています。
 30年くらい前は、人間関係を作るのが苦手な人でも、活躍できる職場が多数ありました。モノづくりをする工場では、技術がある人なら、口べたで人見知りが激しくても黙々と働いて貴重な労働力として役立ってきました。
 ところが現在は円高で産業の空洞化が進み、工業製品は中国など外国から買った方が圧倒的に安い時代になりました。そして就職先は、客と接する店員等のサービス業の割合が一段と増えました。サービス業は人と接する仕事ですから、人見知りしていては話になりません。美味しいパスタの店でも、店員が無愛想なら客は敬遠して来なくなってしまうのです。人と接するコミュニケーション能力が低い人にとっては、活躍の場が大きく狭まってきています。 

◆文化祭は絶好の機会◆
 人間関係がより重要になっている現在、文化祭の参加は、他の人と関係を作っていく非常に良い訓練の場になります。文化祭は、他の行事の何倍もの経験が得られるのです。 

◆仲間との緊張関係◆
 文化祭の準備では、仲間との緊張関係が発生します。普段の高校生活では、たとえば授業中に居眠りしても、直接迷惑をかける訳ではありません。宿題しなくても、赤点とっても、先生に叱られることはあっても、直接仲間に迷惑はかかりません。「クラブ活動で県大会進出をかけて戦い、勝ってみんなで抱き合う」ような、緊張は日常の高校生活にはないのです。
 ところが文化祭の参加では、様々な緊張関係が生じます。
 合唱コンクールなら、曲を決めたら練習あるのみですが、文化祭は「出し物を何にするか」「係り分担をどうする」「予算をどうする」など様々なことを話し合いで決めます。決めることが非常に多く、それが他の行事よりも長期間に及びます。 

◆トラブルへの対処で◆
 すると当然トラブルが発生します。「準備をサボる人がいて仕事が進まない」「予定した計画が現実離れしていて無理」「責任者は係の生徒の意見を聞かずに独走しすぎ」など、不満がくすぶってきます。先生は細かく指示しないことが多いので、生徒自身で解決するのが基本となります。
 友達から「サボるな」「勝手すぎる」などと言われる側も、言いたいことはあるはずです。「いい加減と言われても会議では反対意見は出なかっただろ」「やりたい企画が多数決で負けたから、やる気が出ない」などなど。
 特に演劇やダンスの公演では、一人がいい加減だったら全体がぶち壊しになりかねないので、特に緊張感が出ます。
 努力不足や準備の進め方を批判する方も、批判される方も、ほとんど経験したことがない緊張感になります。ぬるま湯の高校生活では、数少ない経験になります。
 この時のスタンスは「あいつが悪い! 絶対許さん」ではなく、「批判しながらも一緒にやろう」というものになるはずです。この点を押さえておけば、批判された人も、ハッピーエンドで文化祭を終えることができると思います。 

◆外への働きかけ◆
クラスの外、学校の外への働きかけも、貴重な経験になります。準備段階では、たとえばこのようなことがあります。
★クラスを代表して、実行委員会と文化祭予算の獲得の交渉をする。
★安い物品・珍しい物品を探して、多くの店に問い合わせの電話をかけまくる
★研究発表で取材するために、大学などにアポをとったり礼状を書いたりする。
 知らない人に、電話をかけて依頼したり交渉したりする経験は、高校生にとって非常に貴重です。現在の就職状況を見ると、単純な事務職の正社員の募集は大きく減っていますが、営業職の募集は結構あるのです。知らない会社に電話して足を運んだ経験があれば、営業職も何とかなりそうな気になるのではないでしょうか。 

◆文化祭当日は宣伝◆
 文化祭当日では、お客に来てもらうために、宣伝活動を行います。
 部屋の入口付近で「面白いですよ。ぜひ見ていってください」と呼び込みを行います。離れた場所では「新校舎2階で迷路やってま〜す。」などと声を出しながらビラ配りを行います。
 知らない通行人に「来てください」などとお願いするのは、年に1回のお祭りという雰囲気の中なら多くの人は、さほど抵抗ないと思います。それでも1割くらいの人見知りする生徒にとっては、ビラ配りをするだけでも非常に勇気がいる活動なのです。そういう人にとっては、特に良い経験になると思います。 

◆最適な出し物は◆
以上のように、文化祭は人間関係を勉強して、コミュニケーション能力をつける非常に良い機会と考えられます。では、どんな出し物が適しているのでしょうか。「文化祭に参加したい」というエネルギーがあるのでしたら、演劇・ダンスのような公演が最適です。

『演劇』・・・すでに話し合いの能力がついている高校向けです。
人間関係を作る力を身につけるのに最適なのは、演劇でしょう。登場人物一人の演技がいい加減だと、ぶち壊しになるので緊張感があります。1つの劇を2030分と短くしても良いので、ダブルキャストにするのが適しています。登場人物が12人なら、ダブルキャストで24人になり、演技しない生徒の方が少数派になります。そうすると、照明・音響などの裏方が結構忙しくなり、演技しない生徒もかなり緊張感が出ます。

『ダンス』・・・先生が指導しやすい、中学生でも取り組みやすいのがポイントです。
ソーラン節のように全員同じ動きをする踊りが基本ですが、他にも色々な踊りが考えられます。ダンスは、一人だけズレると非常に目立ちます。これも緊張感が出ます。良い演技をしようとすると、特に練習をサボる生徒との摩擦は必至で、乗り越える必要があります。

もし、生徒にエネルギーがないのでしたら、たとえば模擬店でも、人間関係を鍛えることにつながります。
『模擬店』・・・準備が楽しいが、案外手間がかかり協力が必要。生徒のエネルギーが足りない高校には最適です。高校のなかには、「お前たち、文化祭で、焼きそば、かき氷などの模擬店やらないか
?」と先生が提案しても、「面倒だから嫌だ」と参加したがらない高校もあるのです。仲良しグループ56人だけでなく、たいして仲良くない人も含めた40人で協力するのは「かったるい」ので、演劇やろうなんて言ったら総スカンです。模擬店でも、仕入れ先の業者との打ち合わせや、呼び込みなど人と接する訓練に結構なるのです。 

   〜まとめ〜
現在の社会では、他の人と良い人間関係を作って一緒に活動していく「コミュニケーション能力」が以前より一層大切になっていく。普段の学校生活では「コミュニケーション能力」を身につける機会は多くないが、文化祭の参加で経験できる。特に演劇で仲間と緊張関係になりながら一致団結して困難を乗り越える経験は、非常に貴重なものとなる。