【0】文化祭の指導は「しんどい」
クラス担任の先生にとって、文化祭の指導は「しんどい」と感じることが多い。まず他の行事に比べて「しんどい」と言える。
体育祭なら、高校によっては生徒が全部仕切って、先生は見守るだけのところもある。先生が指導をする場合でも、たいてい慣れている体育科の先生が担当で、英語や理科などの専門外の先生は指導しなくてよいことが多い。
合唱コンクールなら、歌う曲は違うものの、指導内容は他のクラスと基本的には同じ。不慣れなら、他のクラスの先生のマネをしてしのぐ手もある。そもそも担任に、音楽の専門知識を踏まえての指導を求める生徒は、皆無だろう。求められるのは、曲の決め方など会議の進め方の指導や、サボり対策だから、多くの先生にとっては手間はかかるが難しいとは言えないだろう。
しかし文化祭の指導は、他の行事と比べるとかなり「しんどい」面がある。
クラスごとに出し物が違うので、指導内容が異なり、他のクラスの真似がしにくい。更に、たとえば模擬店なら、仕入れ先と量・火気安全対策・衛生管理・装飾・会計など係分担ごとにチェックする必要がある。準備期間が他の行事より長いので、担任は長期間手間をかける必要があることになる。
更に、20年前以上前と比べて、更に「しんどい」状態になってきている。
昔に比べて、生徒が他者との共同作業をする経験が不足してきている。仲の良い5〜6人で動くのならともかく、30人40人を仕切るリーダーは少なくなっているし、無関心な生徒も増えている。
20年以上前は「教育困難校」でも、楽しそうなお化け屋敷や模擬店ならやりたいというエネルギーは初めからあったが、現在はエネルギーに欠ける高校もある。学校による差が大きくなっているのだ。すると、転勤して2校目、3校目でも、前任校との違いが激しく、前の高校の指導経験を活かしにくいと言えそうだ。
このように、文化祭の指導は、しんどい面が多い。
新任で手探り状態の先生はもちろん、強いクラブ活動の顧問になっていて、文化祭の指導に時間をなかなか使えないという事情を抱えた先生もいるはずだ。
そこで、そんな技術や時間がない先生でも、最低でも「これだけは指導したい」という点をまとめてみた。
【1】出し物を考える資料を集める
クラスで何をするか出し物を決めるのには、考える元となる資料が必要だ。出し物を「迷路」にするにしても、どんな「迷路」にするのか、たたき台となる資料は欠かせない。
生徒会が用意してくれれば良いが、そうでない時には、担任が用意するべきだ。すべて千数百円。3冊買って五千〜六千円だから、担任は1回買って教室に置いて生徒が読めるようにしておくと良い。一度買えば、手間がかからず何年も使える。
「文化祭企画読本」(高文研)1985年刊
これまでの教育書は、文化祭の指導方針中心で、出し物紹介や作り方は軽視されてきた。流れを変えた画期的な本。
「続・文化祭企画読本」「新・文化祭企画読本」などのシリーズが、その後何冊も発行されている。作り方の技術も分かるが、それよりは、頑張ってよかったという元気が出る本と言える。
「でっかいものづくりハンドブック」(学事出版)作り方を前面に出したガイド。同じシーリーズとして「文化祭展示装飾ハンドブック」「文化祭イベントハンドブック」もある。
以上の本は、千数百円。書店で注文するのが面倒なら、アマゾンなどの通販を利用して手に入れることもできる。(学事出版の本の多くは品切れのことがあります)
この他、「文化祭企画アイディア事典」(彩図社)も細かな技術が載っていて、とても役立つ。
この他、昨年の文化祭のパンフレット(または出し物一覧)があると、特に1年生にはイメージがわく。最近は多くの高校で、学校案内を作るために、文化祭の出し物の写真を撮っている。この写真を使わせてもらえば昨年度の出し物が良くわかる。
担任が手軽にできて効果大なのが、出し物の例を写真で示すことだ。
ヤフー検索で「文化祭 空き缶」「文化祭 アーチ」などと打ち込んで画像検索をすると、様々な出し物の写真が一気に出てくる。この中から、よさそうな例を5個くらい切り貼りして、生徒にプリントアウトする。これで生徒に、選択肢を示せる。(当然担任が気に入らない出し物はカットできる)
出し物を「空き缶で大きいものを作る」と決まってからでも、器用な生徒に、「空き缶の出し物例を10〜20個編集して作ってくれないか」と頼むこともできる。
【2】企画の決め方を指示する
出し物を決める時に、すぐ単純に多数決を取ってはダメというのは、案外生徒は分かっていない。
(詳しくは、こちらを参照 http://bunkasai.o.oo7.jp/kimekata.html )
すぐ多数決だと、「予算などの面で実現可能か」「参加目的は何か」を考えずに、「面白そうかどうか」だけで安易に決められてしまう欠点がある。また、じっくり審議しないと、自分の指示する案が却下された時に「いい加減に決めて落とされた」と思われて、準備に協力する元気がなくなってしまう。
だから、担任は、「実行委員会形式で決める」とか「企画書をみんなに書いてもらう」と一方的に決めて、生徒に伝えるのが必要だ。すぐ多数決だとマズイ理由を説明した方が良いが、とにかくここだけは担任がハッキリ指示したい。
これだけなら、クラブ指導で忙しかったり、文化祭の指導に不慣れだったりしても、十分可能だ。
【3】どこに相談すれば良いかアドバイス
生徒は、ネット検索は得意だが、それ以外の情報は案外少ない。担任が直接アドバイスするのは無理でも、誰に聞けばよいかをアドバイスするだけでも大きな力になる。たとえば・・
「釧路湿原の発表をするので資料が欲しい」
→→地元の観光協会や市役所に相談してみたら?資料を送ってもらえたり、質問に答えてくれるかもしれないよ。
「インド料理について知りたい」
→→国語の山田先生は、昔インドに住んでたから聞いてみれば?
「模擬店の看板がうまく描けない」
→→美術の田中先生は、デザインが専門だから、すごく詳しいはずだよ。
「装飾に使うベニヤ板、どこで買えば良いの?」
→→去年の2年A組が大量に買ったから、元2年A組の人に聞けば?
あとは、ホームセンター3件回って安い店を選べばいいんじゃない。あと学校まで運んでくれるのも大切だよ。
【4】最低限のチェックをする
他のクラスなら担任がどんどん介入していくのに、ウチのクラスは担任は生徒のすることに口出ししないというスタイルは、生徒だけで準備が進む限りは、悪いことではない。
ただし、最低限のチェックはしたい。
「お金に関すること」・・・文化祭に必要な費用を集める時は担任が承認。多額の出費(たとえば5000円以上)は担任の承認を得る。といったお金に関するチェックは必要だ。
「準備時間に関すること」・・・準備に力を入れるのは良いことだが、下校時刻に帰るというルールは守らなくてはならない。もちろん授業中に「内職」して文化祭の作業をするのも不適切だ。また、準備が文化祭に間に合うか、計画をチェックするのも求められる。
「会議に関すること」・・・本人が不満を持ちながら係に就けては、サボりの原因となってしまう。だから係り分担に関しては原則として本人の了承が必要で、どうしてもという時は担任の許可を得て例外的に決めるという手もとれる。
最低限のチェックは、「週1回くらい」で「問題があれば何度も指摘」するのが適切だろう。週1回なら、準備が遅れていても、担任は「来週までに進めろよ」で済ませられることが多いからだ。
【5】生徒を励ます
技術的な指導も大切だが、役員を励ますのも大切だ。考えようによっては、準備をサボる生徒に「ダメだろ、サボるなよ」と言うのは担任の仕事ともいえるのに、役員の生徒が代わって担当しているのである。役員は必要な場面では、多くの生徒を敵に回すこともあるし、面倒な作業を人一倍することもある。
こんな役員なのだから、担任は「みんなのために大変だな」と励まして理解を示すのが何より重要だ。担任が何もできなくても「部活の指導で忙しいから」「担任は信任で文化祭の指導は不慣れだから」と案外事情を理解してもらえるものだ。ただし「何もできなくて悪いな。役員が頑張ってくれて助かるよ」というスタンスで励ます必要がある。
間違っても、役員が議長をするのが下手だからといって「お前に議長の資格はない!」などと冷たくしてはいけない。すると、役員をするのがバカらしくなってしまう。
担任としての姿勢を示して励ますために、役員(または真面目に頑張っている生徒全員)にジュースくらい差し入れするのも良いと思う。