クラスの出し物の決め方

【最初に】イキナリ多数決は駄目

司会「文化祭でウチのクラスは何をするか決めたいと思います。やりたい出し物を言ってください。」
生徒A「お化け屋敷がいい! 面白そう。」
生徒B「空き缶でスカイツリー作るのがいいんじゃない?」
生徒C「もぐらたたきはどう? モグラが
15人くらいいて、1人の人が走り回るの見てると面白いよ」
生徒D「部活で忙しいから、手間がかからない休憩所だと助かります。」

司会「他にありませんか? ・・では多数決を取ります。お化け屋敷が良い人?・・・8人です。空き缶が良い人?・・・11人です。もぐらたたきが良い人?・・・7人。休憩所が良い人?・・・12人です。 一番多いのは休憩所ですので、休憩所に決まりました。」 

こんな決め方は最悪と言えます。どこがマズイか、わかりますか??

40人中12(30%)の支持しかないこと以外に、次の点があります。

1》十分な論議をしていない。

何カ月もクラスで取り組む出し物なのだから、じっくり考えて決めるべきです。大事なことを決めるのに、短時間でパパッと決めていいのでしょうか。十分な話し合いせずに、1票差で却下された人は、やる気がなくなります。

2》実現可能かどうか、適切かどうかの検討が行われていない。

「楽しそう」という基準以外にも考えるべき点があるのに、深く考えずに印象だけで決めるのは良くありません。出し物を決める際には、「休憩所はあまりに安易で、クラスで取り組むのにふさわしくないのでは」「場所・予算などの面で実現可能か」といった検討が必要です。

3》中身のイメージが共有できていない

「空き缶でスカイツリー作る」と提案した場合、高さ2mくらいの小さいモノをイメージして「こりゃ楽だ」と思って賛成した人がいるかもしれません。一方、校舎の34階くらいの大きさで、空き缶集めから組み立てまで大変だけど感動を与えるものをイメージした人もいるでしょう。準備が始まった段階で、「そんなに大きくて手間がかかるなんて聞いてないよ。だったら協力しないよ」と感情的なトラブルになりやすいのです。(決定する前に構想を説明したとしても、こういう不満を持つ人は、しっかり話を聞かない傾向にあり、トラブルになってしまいます) 

4》関心がない人の意識が高まらない

「文化祭当日は文化部で頑張る予定の人」「アルバイトで放課後の準備に加わりたくない人」「あまり仲良くないクラスの人と一緒に準備するのがかったるい人」など、文化祭のクラス参加に興味がない人がいます。何も考えずにボーっとしていて、多数決の時だけ楽そうな企画に何となく賛成する人もいます。案も出さない・発言もしないでは、他の人が勝手に決めたような印象を持ってしまいます。個々の生徒が積極的に案を出す、そして考えを発言することが、意識が高まることにつながるのです。

ではどんな決め方が良いのでしょうか。

中心になる役員がしっかりしていて意欲ある人が多い場合は「実行委員会を作って決める」のがおすすめ。そうでなければ「企画書を書いてもらう」のが適切でしょう。



【決め方・その1】企画書を書かせる

どんな出し物をしたいかを企画書にまとめて話し合う方法です。

1》全員1枚企画書を書く

1人1枚「こんなことしたい」という企画書を書いてもらいます。この段階ではB5の紙1枚のように簡単なもので良いでしょう。たとえば、下記のような企画書です。青い文字の部分を印刷して配布し、1人1人の案を書いてもらいます。簡単な図やイラストを入れるとイメージしやすくなると思います。

      文化祭企画書
                   
提案者: 大島敦子
      
題名:空き缶でスカイツリーを作る

内容説明
校舎にはさまれた中庭に、空き缶で「東京スカイツリー」を作ります。下の太さが直径1m、高さが6mくらいにします。
中央に材木を4本立てて、空き缶を周りにつけていきます。倒れないように、校舎の屋上からロープでつるします。
高いスカイツリーを作ると、部屋の中で発表するより注目を浴びて、来た人を驚かせることができるでしょう。
スカイツリーの先端の影がどこかで「日時計」にもなるように地面に時刻を書き込みます。

みんなで協力できる企画か
空き缶を集めるのには多くの人の協力が必要。部活で忙しい人でも無理なく協力できる出し物です。

単なるモノマネでないか
空き缶でモノを作るのは既に行われています。できたてで注目のスカイツリーを作った高校はほとんどないはず。「日時計」も作るのは文化的で新しいと思います。
     文化祭企画書
                   
提案者: 前田優子
      
題名:利きドリンク屋

内容説明
教室で飲みモノを出す喫茶店を開きます。ただ飲みモノを出すだけでは面白くないので、「ききドリンク屋」にします。
小さなコップに「アクエリアス」「ポカリスエット」などのスポーツドリンクを4種類出して種類を当ててもらいます。4種類が当ったら半額にします。
6種類のカンコーヒーを全部当てたら、無料にします。
普段飲んでいる飲みモノの違いを感じるのは、マジ文化的だと考えます。

みんなで協力できる企画か
利きドリンクをどの程度の難度にするかは、多くの人に試す必要があります。みんな楽しみながら「しまった、アクエリアスの味を勘違いした!!」などと楽しみながらみんなで準備できるのは長所です。
単なるモノマネでないか
こんな企画は、私の知る限り聞いたことがありません。斬新ではないでしょうか。

 特に意識してほしいチェックポイントを書いてもらうと、自然に参加目的を意識させられます。上の記入例では「みんなで協力できる企画か」「単なるモノマネではないか」の2点です。他に「文化と祭りのバランスは悪くないか」「参加して楽しいか」といったチェックポイントを入れても良いでしょう。 (実行委員や担任の立場に立てば、「文化祭は遊びじゃないよ」と正面から訴えるのも良いのですが、企画書の形式に「文化的かどうか」と項目を入れるだけで自然と意識させることになります)

「お金がかかりすぎる」「準備が大変すぎる」のように、このままでは実現困難な企画でも、「不真面目だ!」などと文句言わずに書いてもらって良いと思います。他の人が問題点の解決法を知っているかもしれません。たとえば「予算が少ないから、100mのドミノ倒しは無理だ」と思っていても、ドミノを安く借りられる方法を知っている人がいるかもしれないのです。それに、初めから案に文句ばかり付けられては、自由に考えることがしにくくなると思います。

2》企画書を数枚に絞り込む

 出された数多くの企画書から1枚をすぐ決めるのではなく、支持の多い56枚くらいに絞り込んで、じっくり検討すると良いでしょう。

 絞り方ですが、「班ごとに絞る」方法が良いでしょう。40人のクラスなら単純計算で40枚の企画書が出されます。これを10人の班4つに分けて話し合います。(B4の紙1枚に4枚縮小コピーすれば、10枚を3枚に減らして配れます。)

 1人2分ほどで説明して、中身の質問応答や問題点の指摘を行います。1つの班が10人ほどなので、手を挙げて発言する必要はなく自由に言いあえばいでしょう。30分ほど言いたいことを言って、10枚の中から1枚か2枚に絞ります。それをクラス全体に出して、話し合うのです。「絶対この出し物が良い!!」と思っている人の案が、班の段階で却下されることもありますが、「10枚の中で2位以内に入れなかった出し物が、40枚の中で1位にはならない」と考えてもらいましょう。言いたいことを言って却下されたのなら、大きな不満は出ないと思います。班の中で十分に意見を言ってもらうことが、文化祭に向けての意識が高まることにつながります。

「班ごとに絞る」方法以外に、「クラス全体で絞る」方法もあります。企画書を全員分縮小印刷(B41枚に4)して、11分以内でテンポよく説明します。その中で「面白そう」「じっくり検討する価値がある」と思える案を12つ選んで投票します。そして「上位5つ」を選び、より具体的な企画書を書いてもらい後日再び検討するのです。

3》詳しい企画書を作る

より詳しい企画書を作ります。提案した人が中心になるにしろ、似た企画書を書いた人や賛成した人も作成に加わるとより良い企画書ができます。

 クラス参加の判断の基準となる「無理な企画でなく実現可能か」「文化と祭のバランスで問題ないか」「みんなで協力する企画か」といったチェックポイントも記入してもらいます。

 ↓より詳しい企画書の一例です。
   文化祭企画書 
          
提案者: 大島敦子・篠田みなみ
                  
   (共同提案)
題名:空き缶でスカイツリーを作る

内容説明
校舎にはさまれた中庭に、空き缶で「東京スカイツリー」を作ります。下の太さが直径1mほど、高さが6.34mにして100分の1の縮尺にしたいです。
中央に材木を4本立てて、空き缶を周りにつけていきます。倒れないように、校舎の屋上からロープでつるします。
高いスカイツリーを作ると、部屋の中で発表するより注目を浴びて、来た人を驚かせることができるでしょう。
スカイツリーの先端の影が地面に映る場所に時刻を書いて「日時計」にもなるようにします。
参加して楽しいか
空き缶がどんどん集まり、どんどん組み立てが進んでいくと、進み具合が目に見えて「がんばろう」という気になり意欲がわき楽しい。文化祭当日にクラス全員で記念撮影して、一生の思い出にもなる。→→準備がしんどくないので、サボる人は少ないと思います。

みんなで協力できる企画か
空き缶を集めるのには多くの人の協力が必要。部活で忙しい人でも無理なく協力できる出し物です。

単なるモノマネでないか
空き缶でモノを作るのは既に行われています。しかし、できたてで注目のスカイツリーを作った高校はほとんどないはず。「日時計」も作るのは文化的で新しいと思います。斬新なので「最優秀企画」も狙えます。

大まかな予算
材木・・高さ4mの材木4本 3000円×4本、
     上部の2m、ヨコの結合が計6000円   18000円
固定用針金・ヒモ・釘・・・・4000円
※空き缶の色を活かすため塗料は不要。  
 総計22000円程度で、十分予算内に収まります。

最後のひとこと
当日の注目度は最高です。本校文化祭の歴史に残る「でっかいもの」を作りたいです。
完成図



   (完成図のイラストを書きます)





41つに絞って出し物を決める

 クラス全員で論議して、クラスの出し物を1つに決定します。4〜5枚の企画書を説明して意見を出し合います。最終的には多数決をとります。過半数が取れなかったら、最下位をカットして再投票、過半数が取れるまで繰り返すのが適切でしょう。

 

【決め方・その2】実行委員会が仕切る 

強い権限を持った実行委員会が前面に出て、出し物の決定をリードする方式です。

学級委員などクラスの役員数人と、文化祭で頑張って何かやりたい希望者で、実行委員会を組織します。決める際に1人1票という原則は崩さないものの、文化祭の準備に積極的な実行委員会には大きな権限を与えるという発想です。けっこう高度な方式ですので、担任の先生の支援が欠かせません。

1》出し物の前に、意義・目的を論議する

具体的な出し物を考える前に、どのような出し物か良いか論議します。たとえば・・・

「みんなが楽しめて思い出になりそうなもの」
「本音でつきあえるクラスにしたい。そのために一致団結できて協力が必要なもの」
「高校最後の文化祭なので、準備が大変だが充実感が得られるもの」

出し物を決める際には、このような論議を踏まえるべきでしょう。このように意義・目的を踏まえれば、安易な出し物に流れにくくなります。 

2》実行委員会で出し物を考える

意義・目的を踏まえて、出し物を考えます。中心になって考えるのは、意欲あふれる実行委員です。もちろん、他の生徒に「今日の昼休みに実行委員会を開きますので、やりたい出し物がある人は出席して提案してください」と案内するのも良いでしょう。もっと広く門戸を開いてアンケートを取るのも良いでしょう。

考える際には、過去数年の企画例や文化祭企画読本などの資料を用意すると考えやすくなります。

順当に行けば、
「準備が困難でいいから充実感を得たい」なら「演劇」が適切ですし、
「みんな仲良く無理なく楽しみたい」なら「模擬店」あたりが向いています。 

3》出し物を全体で討議する。

実行委員会で原案ができたら、クラス全体に提案します。意義・目的もあらためて前面に出します。たとえば、こんな提案の仕方をします。

『今、このクラスでは、男女とも3つくらいのグループに分かれていて、ほとんど話をしない人もいます。これでいいのでしょうか。みんなで文化祭の準備をすることで、より良いクラスになるのではないでしょうか。こんな状況では、一体感がある出し物が最適です。だから、クラス全員でのダンスを提案します。』

もし「お化け屋敷」が代案として提案され、可決されそうになった時には、「意義・目的に反する!」と反論したり、「文化祭の出し物として適切か実行委員会で検討したいので、続きは明日」と体制を立て直すことも可能です。 


まとめ・・・出し物の決め方・比較表
★イキナリ多数決
原案なし・企画書なしで、やりたい出し物をいくつか出してもらう。意見交換をしてから多数決を取る。
企画書の利用
出し物の案を1人1枚、企画書に書いてもらう。2段階で絞り込んでいき、賛成の多い出し物に決める。
実行委員会方式
ヤル気のある生徒で実行委員会を結成。実行委員会が出し物の原案の作成や準備を仕切り、全体を引っ張る。
長所 決めるのが単純で手間がかからない
(あとでもめて何倍も手間がかかる可能性もあり)
リーダーや担任が細かく引っぱらなくても、決められる。企画書をもとに説明するので、企画の中身がわかりやすい。やりたいことの企画書を書く経験は将来も役立つかも。 ヤル気のある実行委員の案が、ヤル気の低い一般生徒の代案に負けにくい
ヤル気のある人が全体を引っ張らせる形になる。
短所 時間をかけて話し合っても、ムードで一気に決まってしまいがち。
このため費用などの面で実現可能かなど、問題点の細かい検討がしにくい
大きな欠点は見当たらない。
(実行委員の独走もなく、細かな検討もしやすく、バランスがとれる。)
ヤル気のある実行委員が不可欠。
実行委員の権限が大きく、一般生徒に「実行委員が勝手に独走している」と思われる危険がある
実行委員 時間をかけてじっくり話し合う場合でも、出し物を決める段階では実行委員は特別な仕事は不要。 実行委員は資料のコピーなどの雑用はあるが、出し物を決めるまでに特別な活動はしない。しっかりした役員がいなくても何とかなる。 実行委員は権限が大きい。ただし手間がかかるので、意欲ある人が実行委員になる必要がある。
一般生徒 資料がないので、意見のやりとりを真剣に聞くのがつらいかも。 自分たちが選んだと実感できる決め方て、けっこう楽しい。 企画書を書くのが面倒な人もいる。 話し合いは面倒と感じる人にとって、練られた実行委員会の原案に反対意見は出しにくく、不満に思うかも。
適している高校 短所が多く、30人以上のクラスには向かない。 (少人数のクラスやクラブならOK) 熱心なリーダがいなくいも進められるので、大多数の普通の高校に最適。 ヤル気のある生徒が多い「文化祭が盛り上がる高校」におすすめ。


2012年4月15日作成